いよいよ入校式。福島から両親が来る訳もないので、新入生代表で宣誓をすることは、親には言わなかった。上手く行ったのかどうかは分からないが、とにかく終わった。大講堂を出る時になって、多くの父兄が来ていることに気が付いた。母親が江田島に来るのは、卒業式の時だ。父親は一度も江田島に来なかった。一回位呼んでやれば良かったかとも思う。
入校式が終わると先輩たちの態度が変わる。それまでも威圧的だったが、より一層威圧的になる。遠慮がなくなると言った方がいいかもしれない。お客様扱いは終わりということなのかもしれない。
その日の夜、食堂で新入生歓迎会が行われた。2年生から4年生までいる食堂に、最後に1年生が入って行く。これは恐怖である。1年生は一人一人自己紹介をしなければならない。声が小さいと、先輩からの「声が小さい!やり直し!」「聞こえね~」などなど。何度もやり直しをさせられる。これは歓迎会といういじめだ。と当時は思っていた。しかし、艦に乗るようになると、艦内はうるさい。声が小さいと言葉が通じない。自分の命を守るためには、声は大きい方がいい。
次の日の中国新聞に入校式の記事が載った。見出しは「天下の秀才集う」福岡県出身の高橋一雄生徒が宣誓…と書かれていた。私は福島県出身だ!