いよいよ夏休暇である。やっと学校から解放される。とは言っても、入校して4ヶ月しか経っていない。体重は9㎏減った。1年生は制服である。上下白、七つボタンの詰襟である。江田島の学校にいる時はあまり目立たないが、一旦外に出ると目立つ。ましてやそのまま福島まで帰るのである。目立つどころではない。
江田島からフェリーで広島に渡り、広島駅から新幹線で東京。当時は東北新幹線が無かったので、上野から急行の夜行である。お盆前のためか満員である。
福島駅に着くのは朝の5時頃である。福島まで座れそうにないと覚悟を決めて通路に立っていた。車掌さんが来て「どうぞこちらへ」と言って案内された。車掌室である。そこには小さな椅子が一つあった。特別待遇である。お陰で福島駅まで座って帰ることができた。車掌さんと制服のお陰である。
福島駅からはバスで1時間ほどかかる。バス停で待っていると、お婆さんが近づいて来た。制服の袖口を掴んで「直ぐそこだからちょっと来て」と引っ張られた。何か訳がありそうなのでついて行った。次のバスは1時間後だ。自宅に案内された。玄関先に立っていると、上がってくださいと言われた。仏壇からご主人の遺影を取り出して私に見せてくれた。そこには白い七つボタンの制服を着た男性が写っていた。