希望が無視されて柔道部に入れられたことは以前お話した通りである。私が卒業した中学校の柔道部は、福島県では名が通った強豪校である。朝練をして午後は部活、夜は町の道場、試合前は近くの高校へ出稽古といった具合である。強くなるのは当たり前と言えば当たり前だ。お陰で中学2年生の時に黒帯になった。
生徒の柔道部は有段者もいるが、生徒に入って初めて柔道をする者もいた。それは上級生も同じである。とは言っても4年生が相手だと勝てるものではない。3年生はもちろん、2年生にも手強い先輩が半分ほどいた。普段の学校生活では、1年違えば天と地ほどの違いがある。道場の中ではその様なことはない。
3年生の先輩と乱取り稽古をしていた時だ。私が技を掛けた。鈍い音がした。投げられた先輩が動かない。見ると鎖骨の辺りが変な形をしている。先輩の鎖骨を折ってしまったのだ。初めて人の骨を折った。先輩は直ぐに救急車で自衛隊江田島地区病院に運ばれた。
この話は直ぐに学校中に広まった。「3年生の骨を折った1年がいる。」思いがけず時の人になってしまった。目立ってはいけない学校で目立ってしまった。出来るだけ小さくなっていた。生きた心地がしないとはこのことである。ちなみに卒業までの間、他に2回も鎖骨を折ってしまった。もちろん私が加害者である。