生徒生活の中で一番の楽しみは週末の上陸である。上陸とは外出のことである。刑務所のような学校から一般の社会に出られるのである。よくシャバに出ると言うが、正にそんな感じだ。反対に一番の苦痛は上陸止めである。最も楽しみにしている上陸を制限されるのである。上陸止めの理由は様々だ。試験で赤点、規則違反、授業欠席、体調不良等である。
ある日、柔道の稽古中に足首を捻挫してしまった。その日は湿布で治療したが良くならない。翌日は体育の授業があった。体育とは言っても訓練と変わらない。授業を休むと上陸止めになる。見学もダメだ。足首をテーピングで固定して体育の授業に出ていた。
そこに何故か柔道部の監督が通り掛かった。体育科教官と何か話している。嫌な予感がした。体育科教官に呼ばれた。「高橋、見学していろ!」私には死刑宣告のように聞こえた。見学は上陸止めである。追い打ちをかけるように柔道部の監督が、白い腕章を持ってきた。白い腕章は「体育止め」、傷病兵である。
部活の時間になった。白い腕章を渡された私は体育止めのはずである。柔道着に着替えて道場の隅で見学していた。監督が私を見つけて「高橋!なに休んでいる?稽古しろ!捻挫なんて怪我のうちに入らない!柔道しながら捻挫を治せ!」凄い理屈である。