6月末、4年生が部隊実習のため学校から居なくなった。
これから半年間は3年生の天下である。
4年生が居ると居ないのとでは天地の差がある。
4年生が部隊実習に出る前に、生徒隊幹事(教官�)に呼ばれた。
「隊甲板」をやれ!
隊甲板とは、各班(クラス)に1名いる甲板係(掃除係)をまとめる係である。
私の他にもう1名指名された。
2名で学校全体をまとめなければならない。
掃除に定評のある江田島の、その中でも海軍兵学校の流れを引き継いでいると言われる少年術科学校の隊甲板である。
後輩からすると、最も関わりたくない先輩が隊甲板だ。
1年生などは隊甲板の腕章を見ただけでどこかに居なくなってしまう。
その腕章を4年生から引き継いだ。
腕章の裏には何故か「怨念」と書かれていた。
未だに意味不明である。
掃除は朝と夜の2回である。
毎日、大掃除のようなことをさせられる。
掃除が終わると、隊甲板は校内を点検して廻る。
悪いとやり直しをさせる。
ある日、図書室を点検していると、『一源三流』という本に目が留まった。
手に取って開くと「血と汗と涙を正しく流せ」「日本男子あるところ常に清し」と書かれていた。
在学中は何度も読み返して甲板掃除の点検を、気合を入れて行っていた。