昭和56年10月1日私たちが入校した海上自衛隊少年術科学校が廃止された。
海上自衛隊第一術科学校生徒部となった。
組織が変わるだけで、学校の場所も生活も何も変わらないが、なんとなく寂しい。
廃止に伴って、海上幕僚長が学校の視察に来た。
当時の海上幕僚長は前田優海将である。
私たち3年生(1等海士)にとっては雲の上の存在である。
当然のように分隊点検が行われた。
私たちが整列している前を海上幕僚長が一人一人見て廻る。
瞬きや、目を動かすと質問されてしまう。
そのため、自分の前を通る時は不動の姿勢で、瞬きもせずにひたすら通過するのを待つのである。
海上幕僚長が近づいてきた。
只々何事もなく通過してくれることを願っていた。
ところが、私の前で止まって正対してしまった。
何か質問される。
仕方がない。
覚悟を決めて海上幕僚長の目をにらみ返した。
それが良かったのか、何も質問されずに移動してくれた。
海上幕僚長の目は非常に厳しい目をしていた。
後になって脚が震えた。
6月末から部隊実習に行っている4年生の先輩たちは、
少年術科学校から出発して、
翌年1月に第1術科学校生徒部に帰って来ることになる。
私たち以上に複雑な思いだったのではないだろうか。