3年生の乗艦実習の時に3日間ベッドとトイレの往復で、
何一つ実習が出来なかったことは以前お話しした通りである。
あれ以来、教官たちから「高橋は艦に弱い」というレッテルを貼られてしまった。
私は子供の頃から乗り物酔いをした。
生徒入試の申込時に海上自衛隊を選んだ理由の一つは、
陸上自衛隊に入るとトラックに乗らなければいけないと思っていたからである。
今考えれば何てバカなんだろうと思うが、
山で育った私は、艦が揺れるなんてことを想像すらしていなかったのである。
そんな私に生徒生活の中で最大の試練が間もなく始まろうとしていた。
4年生になると7月からの半年間、部隊実習に行かなければならない。
私は職種が通信だったため、前半の3ヶ月は艦隊所属の艦で、
後半の3ヶ月は通信隊で実習をすることになる。
教官たちの間で問題になったのが、私をどの艦に乗せるかということである。
私を実習生として受け入れた艦に迷惑をかけるというのがその理由だ。
いつものことだがまた教官室に呼ばれた。
班長から部隊実習で乗りたい艦の希望を聞かれた。
私が「希望はありません。揺れない艦でお願いします。」と答えると、
「バカ野郎!揺れない艦があるか!艦は全部揺れるんだ!」と怒られてしまった。