昔から兵隊さんの楽しみは食事と相場が決まっている。
陸上の部隊は1日3食である。
しかし、艦艇は夜食があるので1日4食である。
夜食なので、通常の食事が出るわけではない。
普段は一品である。
ラーメンやチャーハン、入港の前日には決まって、ぜんざいである。
入港ぜんざいと言われていた。
金曜日のお昼は、海上自衛隊の全部隊がカレーである。
一口にカレーと言っても、部隊によって味が違う。
その部隊の調理員長の腕である。
私が乗艦した「護衛艦はるな」のカレーは美味しかった。
ある日、内火艇のバーメンをさせられた。
内火艇とは、艦艇に搭載されている小型のボートである。
艦が湾内に停泊している時に、艦と陸上の桟橋の間を往復して人や物を運ぶのに使用されたりする。
バーメンとは内火艇の前部に立って、もやいを取ったり、爪竿で内火艇を離岸着岸させたりする係である。
その日は霧が濃く艦から陸上の桟橋が見えなかった。
艦から出る時は当直士官から桟橋の方向が指示された。
艦に戻る時はどうすればいいのか訊いてみた。
「本艦は今日カレーだ。カレーの匂いのする方に帰ってこい。」とのことだった。
その言葉を信じて桟橋に向かった。
帰り、あっちこっちからカレーの匂いがする。
停泊している艦艇、全てカレーだったのだ。