いよいよ乗艦実習も終わりである。
気がつけば船酔いのことなどすっかり忘れていた。
天気の良い日に上甲板に出ると、どこまでも碧い海。
艦隊勤務はいいな~などと思ったりしていた。
最後の出港は佐世保から横須賀だ。
この出港から帰って来たら転勤のはずだった。
出港の前日、佐世保に来た初日に連れて行ってもらった
四ケ町のモアというクラブに行った。
かよちゃんというお酒が飲めないチーママが、いつも私の係だった。
「帰って来たらまた来るね、たぶんそれが最後かな」などと
一人前なことを言って出港した。
横須賀入港が当初の予定よりも数日遅れた。
それでも一旦は佐世保に帰ってから転勤になると思っていた。
ところが、朝、いつものように食堂で食器を洗っていると、
船務士が来て「出港前に下ろすから、直ぐに制服に着替えてこい」
突然の転勤である。
次の実習先は館山航空基地隊。
着任日まではあと3日あった。
佐世保に戻ると着任日に間に合わないというのが理由のようだった。
送別会もなく、右も左も分からない横須賀で艦を下ろされてしまった。
着任日までの間は代休で処理された。
行くところがない。
仕方がないので福島に帰省することにした。
自衛隊というところは人を物のように扱うところだ。