着任早々、診療所に行った話は前回した通りである。
が、この話にはつづきがある。
その日の午後、調理員が面会に来た。
普段、調理員が通信隊に来ることはない。
理由を尋ねると「どんな奴が転勤してきたのか見に来た。」と言っていた。
実は、診療所の先生から調理員に医療指示が出されていたのだ。
私の食事に使う油と塩の量を減らせという内容だ。
隊内で一人のために特別料理を作れるはずもなく、
自分で何とかしろという事だった。
当然のことながら、病気が治るまでは上陸ができない。
つまり、朝・昼・晩三食とも隊内で食べなければならない。
隊内の食事で、油・塩を使っていないものは白米と野菜ぐらいである。
白米と野菜だけでは体が持たない。
とんでもない医療指示だ。
当時、基地内に館山クラブという場所があった。
ここは夜になるとお酒が飲めるのである。
もちろん料理も出してくれる。
支払いはニコニコ現金払いか月末一括払いである。
隊員食堂では調理員が見ているので好きには食べられない。
そこで、高橋少年は医療指示を無視して、病気が治るまでの間、
毎晩、館山クラブで飲み食いをしていたのである。
月末、隊長に呼ばれた。
館山クラブから明細の書かれた請求書が通信隊に来ていたのである。