大湊地方隊に所属する護衛艦には北方海域の監視警戒任務がある。
他国の軍艦や不審船が日本の領海に入るのを監視するのである。
夏の日本海は穏やかだ。
まだ雪が残っている鳥海山や利尻富士を海から眺めるのは特に綺麗だ。
艦乗りになって良かったと思える瞬間でもある。
一方、冬の日本海は三日のうち二日は荒れている。
利尻島や礼文島付近の海は荒れ方が半端ない。
毎日が台風だ。
護衛艦の上甲板には転落防止用のチェーン(ハンドレール)が設置されている。
通常は鎖だが、大湊の護衛艦はワイヤーをビニールで覆ったものが使われていた。
これは冬に鎖を握った手が、鎖に張り付かないためらしい。
冬の北方海域監視任務では、この直径1㎝位のハンドレールに氷が付着して二三日で10㎝位の太さになる。
これを放置すると転覆の原因になる。
そのため天気の良い日には総員で艦に付着した氷を落とさなければならない。
そんな北方海域監視任務の途中で稚内の港に艦が入港した。
入港前に先任海曹室に呼ばれた。
「入港したら直ぐにこの番号に電話して「艦が入港した」とそれだけ伝えろ」と言われて電話番号が書かれた紙を渡された。
しばらくすると岸壁にトラックが入って来た。
そのトラックには「カニ」と書かれていた。


