着任して1週間後、初めての出港である。
実習に出る前に教官から「船酔いをすると物が食べられなくなる。
ベッドでも食べられるように羊羹を買っておけ。
何か胃の中に入れておかないと胃液を吐くようになり胃に穴が開く」と教えられた。
上陸の時に羊羹を買った。
エチケット袋も用意した。
ついでに飴玉やビスケットも買っておいた。
出港ラッパと「出港用意」の号令は聞いたが、いつ港を出たのか分からなかった。
食堂で食器洗いをしていて気がついたら出港していたのである。
艦は佐世保を出て、日本海を北上する予定であった。
ところが運悪く後ろから台風が追いかけてきた。
反転して台風の後ろに出ることになった。
台風を突っ切るのである。
初めての航海が台風突破である。
食堂にいたが、だんだんと揺れが大きくなってきた。
しばらくすると「ミシミシ」「バキバキ」「ビシー」という大きな音がし出した。
鉄板が軋む音である。
艦が折れて沈むかと思うほど揺れた。
2週間ほどの航海が終わって佐世保に入港した。
何故か艦長に呼ばれた。
「高橋、船酔いしたんだって?船酔い第1号だ。表彰してやる。」と言われた。
この話は、あっという間に艦内に広まってしまい、
不名誉な時の人となってしまった。