護衛艦「おおい」での初めての出港は神戸まで水船を迎えに行くというものだった。
単艦行動で特に訓練はない。
出港の日の朝、「荒天準備」がかかった。
移動するものを全て固定するのである。
電信室の椅子はボルトで床に固定する。
固定できないものは、ロープで縛って移動しないようにする。
初めての出港が荒天とはついていない。
「おおい」での私の配置は艦橋交話員だった。
電信室から外は見えないが艦橋は外が見えるのでいい。
艦橋の天井に鉄棒のようなものが複数あった。
航海員たちがそれにぶら下がって懸垂をしていた。
私はそう使うのだと思っていた。
実際は違った。
艦が揺れて捕まるところが無い時にそれに捕まるのだ。
出港するとすぐに官舎の横を艦が通過する。
官舎の奥様たちが手を振っているのが見える。
毎回恒例だが、何ともよい光景である。
艦が揺れ出した。
電信室に居ると船酔いしそうなので艦橋にいた。
電信室から「電報が来るから下りてこい」と呼ばれた。
当時はまだモールス信号である。
受信機の前に座ってレシーバーを着けて受信を始めた。
長い電報で全く終わらない。
我慢ができなくなってバケツを持って来てもらった。
バケツを抱えて受信を続けた。
初出港で初船酔いである。