海上自衛隊内の職種で「通信」とは、陸上基地、艦艇、航空機等間の通信や、暗号の作成・翻訳をする仕事である。「水測」とは、海中に潜む潜水艦を音波によって探し出す仕事である。どちらも耳を使う点では同じである。空間に電波を飛ばすのと、水中に音波を出すことが違いである。
1年生の途中で「通信」と「水測」にクラスが分けられる。そのために適正検査が行われた。私はどちらの適正もあったが、希望はどちらでもいいと出した。「通信」は、怖そうな教官や先輩がたくさんいた。更に卒業までに3級無線通信士の国家資格を取らなければならない。「水測」はなんとなくイメージが暗かった。
通信科教官室の掃除をしていた時だった。ある通信科教官から呼ばれた。話したことがない教官だった。「お前、通信だから!」と突然言われた。まだ発表前にも関わらず、何でこの教官は知っているんだと思っていると「お前、高橋だよな?目立つから直ぐ分かる。俺が通信に引っ張ってやった。鍛えてやるから楽しみにしていろ!」と言って行ってしまった。
整列する時には常に最前列ではなく2列目以降に並んでいた。できるだけ目立たないようにしていたつもりだった。どうも目立っていたらしい。「通信」に行くことよりも、目立っていたことの方がショックだった。