自衛隊生徒の試験に合格はしたものの、就職することに変わりはなく、私の中ではなんとなく恥かしい気持ちがあった。そのためもあってか、友達には合格したことを話さなかった。しかし、先生達の口から伝わったのだろう、しばらくして皆の知るところとなった。
そんなある日、近所のおばちゃんに呼び止められた。「今日、警察の人が来てね、一雄君のこといろいろ訊かれたけど、おばちゃん、何にも悪い事言わなかったからね、安心しな」と言われた。後で分かったことだが、自衛隊の素行調査だったらしい。一通り自衛隊の方で素行調査をやって、問題がある場合は警察が再度やるのだそうだ。私は問題があるらしい。
自衛隊に入隊するためには、いろいろな書類を提出しなければならない。その中に問題の内申書もあった。ある日、美術の先生に呼び止められた。「高橋、お前の内申書、俺が清書した。安心しろ!悪いことは何も書かれてないぞ!」まったく、私が何か悪いことをしていたみたいな言い方をする。
ずいぶん後になるが、自衛隊の学校を卒業する時に分隊長に呼ばれた。「高橋、よく猫被ったな~!」「4年間猫被れれば本物だろう~」「お前がいつ本性を現すか、俺は少し期待していたんだけどな~」と言われた。何を期待していたのか?さっぱり分からない。