下宿に先輩が居る時は食事には困らない。食事の時に先輩の後をついて行くと必ずおごってもらえる。おごってもらうことを目的について行くわけではないが、お昼時や、夕飯時になると先輩から声がかかる。
ある時、いつもご馳走になってばかりでは申し訳ないと思い、自分の分は自分で払おうとした。ところが先輩から「先輩と一緒の時は払わなくていい」と言われた。それでも払おうとすると「俺たちも先輩からおごってもらった。だからお前たちも後輩が入ってきたら、後輩におごってやってくれ」と言われた。海上自衛隊生徒の美しい伝統である。
しかしこれは学校にいる間だけで、部隊に出ると割勘である。割勘とは言っても、そこは生徒出身、一桁代、10期代、20期代、30期代…で支払う金額が違う。部隊に出てからも後輩は得である。
私が4年生の時に、同じ下宿の1年生に「お前ら今日いくら持って上陸してきたの?」と訊くと「200円」とか「300円」と言う。今から約40年前のこととは言え一日過ごすことはなかなか難しい。「食事は?」と訊くと、「先輩におごってもらいます!」と遠慮がない。ある日、私1人で1年生4人を夕飯に連れて行くと「先輩いい匂いしますね~」とか言って、焼肉屋の前から動かない。その日は高い夕飯になってしまった。