8月、いよいよ遠泳である。1年生は5マイル(約9㎞)、2、3年生は7マイル(約13㎞)を、1時間1マイルのペースで泳がされる。4年生は7月から部隊実習に行っているのでこの時期学校にはいない。
朝8時半頃から学年ごとに海に入り、全員が海から上がるのは16時頃である。教官たちは伝馬船に乗ってついてくるが、決して伝馬船に上げてはくれない。7月から毎日海で水泳訓練をしているので、泳ぎながら用を足すのは慣れたものである。一度だけ伝馬船につかまって大をしている奴を見たことがある。足がつっても泳ぎながら自分で治す。昼食は、伝馬船につかまっておにぎりを食べる。おかずは、塩鮭、玉子焼き、ウインナー、たくわんである。教官が伝馬船の上から配ってくれる。親鳥がヒナに餌をやっているようなものだ。泳いでいる最中に配られるのは、乾パンと氷砂糖である。普段は食べないがこの時ばかりは美味しい。遠泳中の楽しみは食べることだけである。
火葬場の前を通る。ここは潮の流れが逆のためか、なかなか前に進まない。先輩たちからは死者が足を引っ張っているから進まないんだと脅かされたものだ。
やっと完泳して上陸すると、生姜湯が配られる。生姜湯を飲むのもこの時だけである。今日はこれで終わりだと思っていると、普段通り部活が待っていた。